写真: トヤマタクロウ
詩: 瀬尾夏美
デザイン: 米山菜津子
刊行: 2023年
出版: YYY PRESS
定価: 6,050円(税込)
188mm × 263 mm
312ページ
東北の沿岸部に行って、現在の住宅環境や暮らしの風景を本にしませんか、と、編集の柴原聡子さんから誘われたのは2022年の初夏だった。
3.11の震災から11年が経ち、ひと段落したかに見えるその場所を写真と言葉で記録したい、という話に、今までその土地にあまり触れてこなかった自分は少し怯んだ。が、現地で復興を見続けたくさんの話を聴いてきた瀬尾夏美さんに詩を寄せてもらうこと、彼女から「旅人の視点で感じたことを入れてほしい」という声かけをもらったことで、写真はトヤマタクロウさんにお願いすることになり、その4人で取り組むことで自分もなにかできるかもしれないと思うようになり、なんとか腹が決まった。
何度か現地を訪れ、約1年間をかけて見てきたものをまとめた、たった1年ではあるが、復興という言葉がはらむ問題、都市と地方の関係、そして、個人の声と同じ場所で過ごす集合体としての土地の声、等について考えていくきっかけとなった。
2024年は能登の震災で幕が開けてしまった。なにもまだひと段落などしてはいないのだ。(米山)
いままでのYYY PRESSの出版物とはすこし毛色の異なるもの。編集者、詩人、写真家というコラボレーターを得てより広いテーブルでより大きな話をしているが、しかしそこで示されるものは決してイデオロギーにはならず個人的な、ささやかな、でも確かにそこにはっきりとあるものたちの吐露である。そういう意味ではとてもYYY PRESSらしい本。表紙が白すぎてその決断力にたじろぐ。
東日本大震災をきっかけに陸前高田市に移住しリサーチ・制作を続けてきた詩人・瀬尾夏美と、写真家・トヤマタクロウによる写真詩集。瀬尾さんが辿ってきた土地の声と、その積層のうえにあらわれた現在を捉えたトヤマさんの写真。どう描いても感情に起伏を生むテーマを、過剰な描写の一切を避け、静かさによって強度を生んでいる。
震災からのフィードバックを受けて様々な作家が創作を行っていると思うが、このプロジェクトはこれまでのものとは少し違ってプレゼンテーションの体温が低い印象を受けるが、質量はかつてないほど重く感じる。詩も写真も美しく感じてしまうが、それをどう処理すれば良いのかわからなくなる。表面がさらっとしすぎているが、色々考えてみるとこれしかあり得ないという考えになる。しかしここに辿り着くのはかなり難しいことである。
「独立系出版のある極北」展
2024年1月20日(土) - 2月4日(日)
場所:本屋青旗
福岡県福岡市中央区薬院3-7-15 2F
12:00 - 19:00 水曜定休
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2024年1月20日(土)から2月4日(日)まで、福岡・本屋青旗にて、「独立系出版のある極北」展を開催します。FUJITA、YYY PRESS、Dog Yearsの3つの独立出版社が、それぞれの視点と情熱をもって生み出された本を展示し、出版に込めた想いを共有します。
本展示では、藤田裕美(FUJITA)、米山菜津子(YYY PRESS)、白石洋太(Dog Years)の3人のデザイナーが、独自の出版活動を通じて生み出された作品群をご紹介します。
Dog Yearsは「なにがみてるゆめ」というタイトルの本を刊行しており、その著者である小山田孝司が制作にあたってインスピレーションを受けた本も同時に展示されます。
各本に添付されたQRコードを通して、参加者それぞれが他の参加者の出版物についての自らの視点を述べたコメントにアクセスできます。加えて、独立系出版社の書籍を多く取り扱う本屋青旗の店主・川﨑雄平氏の視点を含むコメントも閲覧できます。
また、特別な2回のトークセッションが1月20日に開催されます。最初のセッションでは、展示のテーマについて藤田裕美、米山菜津子、白石洋太、川﨑雄平の4人で話をします。
2回目のセッションでDog Yearsの「なにがみてるゆめ」に焦点を当てたディスカッションも開催し、小山田孝司、中村健太、松田瑞季、白石洋太が登壇します。中村健太と松田瑞季は、この本に写真家として貢献しており、彼らの視点からの洞察もこのセッションで共有される予定です。
本展示は、独立出版の多様性と創造性を探求する機会を提供し、出版の未来に新たな光を当てます。デザイン、文学、写真など、さまざまな分野における出版の可能性を、この展示を通じて発見してください。
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藤田裕美 (ふじたひろみ) he/him
グラフィックデザイナー / エディトリアルデザイナー。1982年東京生まれ。2004年桑沢デザイン研究所総合デザイン科卒業。デザイン事務所を経て2010年独立。2011年から2017年までWIRED JAPANアートディレクターを担当。2015年出版レーベルFUJITA設立。オルタナティブスペースSTUDIO STAFF ONLY共同主催。https://www.instagram.com/fjt.tokyo/
米山菜津子 (よねやまなつこ)
1981年東京生まれ。2003年に東京藝術大学デザイン科卒業、グラフィック・エディトリアルデザイナーとして活動開始。CAP、PLUG-IN GRAPHICを経て2014年にYONEYAMA LLC.を設立。出版レーベルYYY PRESS主宰。オムニバス冊子『GATEWAY』を不定期で発行するほか、オルタナティブスペースSTUDIO STAFF ONLY運営としても活動している。http://natsukoyoneyama.tokyo.jp
白石洋太 (しらいしようた)
ウェブデザイナー。出版社Dog Years、Far North Publishers Meetingを運営。https://dogyears.space