著者: 松本直也
デザイン: 米山菜津子
刊行: 2020年
出版: YYY PRESS
定価: —円(税込)
この写真集は、写真家・松本直也さんから「個展のために本をつくりたい」という依頼をもらってつくられた。
掲載されている写真は、父親〜彼〜彼の息子の関係性を軽やかに掬ったものだ。彼は、自分の父親がどこからか拾い集めてくる「がらくた」みたいなものを最初は理解できず、少し疎ましく感じていたという。
だが、彼のパートナーが妊娠し、実家に帰ることが増え、そんなとき父の集めた「がらくた」とふと戯れていると、それが顔や生き物に見えてくる瞬間があり、だんだんそれを触りながらまだ見ぬ息子のことを思い浮かべるようになり、なんとはなしにそれらを組み合わせてコンポジションをつくり、写真に撮り始める。
その「がらくた」が溢れる軒下にお伺いしたことが何度かあるが、そこは、気負わない遊び心が張り巡らされた気持ちのよい「アトリエ」で、手で考えること、思い立ったらやってみること、そういう気持ちを後押ししてくれる何かがあった。(米山)
この本に出てくるオブジェはランダムな素材でつくられ、とりとめなく作り続けられているようだ。それ自体に目的も指向性もなさそうに見えるが、一冊の本にまとめられることによって、それがどういったことなのか輪郭が与えられる。写真家とその父親の交流というのが制作の背景にあるようだが、明確なことは示されない。全体を通して個人的でささやかな行為が描かれているが、そういった声を拾って示すという点で、版元の方向性が感じ取れる。
なぜかこの本の表紙はマットでしっとりとした本だと思い込んでいたが、久しぶりに触ったらさらさらとしていた。軽やかだった。
写真家・松本直也が、実父が拾ってきたガラクタを使って、創作したオブジェを撮り下ろした作品集。流木や鉄くず、木片、ダンボールなどを、置いたり、立てかけたりしながら、ユニークな作品がつくられている。
組み合わせによって変形し、ものの見え方を変えていくこの遊びは、父と息子の関係性を変化させたのだろう。オブジェは時折、かつて父親が盆栽を育てていたであろう場所で、あるいは皺が刻まれた手のひらの上で撮影されている。父親と「一緒にいられる時間を作りたい」(本文より)と素直に書けるようになった作家自身の変化を少しうらやましく思う。
松本直也氏とは、彼のウェブサイトの制作を担当させていただいた経験があり、個人的な親交がある。彼は日常的に多くの言葉を交わすタイプではないものの、写真作品においては、対象を深く掘り下げ、その本質を明らかにする独特の魅力を持っている。
彼の父親との日常的な会話の内容については詳らかではないが、父親の作品を拝見するに、息子と同様の内省的な雰囲気を感じ取ることができる。
目に見えて非常に親密な関係性を感じ取れるわけではないが、この本や作品を通じて、父と子の間で何らかの意識の交流が行われていることが伺え、それが彼らしいと思う。
「独立系出版のある極北」展
2024年1月20日(土) - 2月4日(日)
場所:本屋青旗
福岡県福岡市中央区薬院3-7-15 2F
12:00 - 19:00 水曜定休
---
2024年1月20日(土)から2月4日(日)まで、福岡・本屋青旗にて、「独立系出版のある極北」展を開催します。FUJITA、YYY PRESS、Dog Yearsの3つの独立出版社が、それぞれの視点と情熱をもって生み出された本を展示し、出版に込めた想いを共有します。
本展示では、藤田裕美(FUJITA)、米山菜津子(YYY PRESS)、白石洋太(Dog Years)の3人のデザイナーが、独自の出版活動を通じて生み出された作品群をご紹介します。
Dog Yearsは「なにがみてるゆめ」というタイトルの本を刊行しており、その著者である小山田孝司が制作にあたってインスピレーションを受けた本も同時に展示されます。
各本に添付されたQRコードを通して、参加者それぞれが他の参加者の出版物についての自らの視点を述べたコメントにアクセスできます。加えて、独立系出版社の書籍を多く取り扱う本屋青旗の店主・川﨑雄平氏の視点を含むコメントも閲覧できます。
また、特別な2回のトークセッションが1月20日に開催されます。最初のセッションでは、展示のテーマについて藤田裕美、米山菜津子、白石洋太、川﨑雄平の4人で話をします。
2回目のセッションでDog Yearsの「なにがみてるゆめ」に焦点を当てたディスカッションも開催し、小山田孝司、中村健太、松田瑞季、白石洋太が登壇します。中村健太と松田瑞季は、この本に写真家として貢献しており、彼らの視点からの洞察もこのセッションで共有される予定です。
本展示は、独立出版の多様性と創造性を探求する機会を提供し、出版の未来に新たな光を当てます。デザイン、文学、写真など、さまざまな分野における出版の可能性を、この展示を通じて発見してください。
---
藤田裕美 (ふじたひろみ) he/him
グラフィックデザイナー / エディトリアルデザイナー。1982年東京生まれ。2004年桑沢デザイン研究所総合デザイン科卒業。デザイン事務所を経て2010年独立。2011年から2017年までWIRED JAPANアートディレクターを担当。2015年出版レーベルFUJITA設立。オルタナティブスペースSTUDIO STAFF ONLY共同主催。https://www.instagram.com/fjt.tokyo/
米山菜津子 (よねやまなつこ)
1981年東京生まれ。2003年に東京藝術大学デザイン科卒業、グラフィック・エディトリアルデザイナーとして活動開始。CAP、PLUG-IN GRAPHICを経て2014年にYONEYAMA LLC.を設立。出版レーベルYYY PRESS主宰。オムニバス冊子『GATEWAY』を不定期で発行するほか、オルタナティブスペースSTUDIO STAFF ONLY運営としても活動している。http://natsukoyoneyama.tokyo.jp
白石洋太 (しらいしようた)
ウェブデザイナー。出版社Dog Years、Far North Publishers Meetingを運営。https://dogyears.space