デザイン: 米山菜津子
刊行: 2020年
出版: YYY PRESS
価格: 2,420円(税込)
174mm × 246mm
376ページ
YYY PRESSが2015年から発行しているオムニバス書籍の4号め、現状の最新刊。
「人の話を聴く」をテーマにリレーインタビューやエッセイ、ドローイング、写真などを綴じた。この号をつくった時期はジョージ・フロイド事件を発端としたBLACK LIVES MATTER運動が巻き起こっていて、抗議活動として真っ黒になったInstagramを目撃し、その活動に対しての色々な反応を受け、「何が善い振る舞いなのか、どう考え、どう動いたらよいのか、まったくわからない」という底が抜けたような不安があった。
まず自分に出来ることは、わからないことを前提として人の話を聴くことなのではないか。まずは自分の考えを差し挟まず、隣の人の話を傾聴する。どこまで話を丁寧に聴けるのか。そこからスタートしたい。そう考えたことがこのテーマ設定となった。(米山)
コロナ禍にリリースされたことは無視できないであろう、コミュニケーションについての思考の号。
紙媒体へのノスタルジーでも、所有欲でも、特別感でもなく、ただこの場(=GATEWAY)でしか語り得ないものはなにかを探っている。適切な場を用意しないと語れない/語られないものがある。紙媒体は他メディアと比べると圧倒的に”遅い”が、可塑性に富み、ナラティブを内包することができ、深く潜ることのできるメディアで、米山氏は10代の頃からそういったコミュニケーションに勇気付けられてきたのであろう。
あらゆる事が加速していく中で、遅効性の媒体を選んでいるという事自体、ひとつの批評でもある。YYY PRESSの「YYY」は、「ゆっくり・よく・よむ」という解釈もあるらしい(諸説ある)。
「雑誌」と呼ばれるものには明確な定義があり、この「雑誌のようなもの」を指す言葉として「オムニバス書籍」と呼んでいると聞いた。とても米山さんらしいと思った。
「人の話を聴く」がテーマの今号では、語り手が聞き手となり、リレー形式でインタビューが進む。語られた言葉それぞれと向き合いながら、ひとつずつ積み重ねたそれらの集積として一冊の本となっている。きっと、あらかじめ完成図を描かずにつくられているだろう気配に安心する。
途中、小山田孝司の作品集『なにがみてるゆめ』がまだ刊行される前の、このプロジェクトの写真がある。被写体と撮影者が明かされ、この関係性を示唆するエッセイが収録されている。それがまだ進行形であること、「いま、この瞬間」が綴じられている感触に、どの雑誌よりも雑誌らしい本だと思った。
米山氏の編集的な視点が存分に注ぎ込まれた1冊。グラフィックデザイナーという職能を拡張していると同時に、本来はこうあるべきであるという本質的な結論に辿り着く。
表面はさらっとしているのに中はとても熱いものがある。軽やかにヤバいことをしているというのが米山氏の特異性である。
「独立系出版のある極北」展
2024年1月20日(土) - 2月4日(日)
場所:本屋青旗
福岡県福岡市中央区薬院3-7-15 2F
12:00 - 19:00 水曜定休
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2024年1月20日(土)から2月4日(日)まで、福岡・本屋青旗にて、「独立系出版のある極北」展を開催します。FUJITA、YYY PRESS、Dog Yearsの3つの独立出版社が、それぞれの視点と情熱をもって生み出された本を展示し、出版に込めた想いを共有します。
本展示では、藤田裕美(FUJITA)、米山菜津子(YYY PRESS)、白石洋太(Dog Years)の3人のデザイナーが、独自の出版活動を通じて生み出された作品群をご紹介します。
Dog Yearsは「なにがみてるゆめ」というタイトルの本を刊行しており、その著者である小山田孝司が制作にあたってインスピレーションを受けた本も同時に展示されます。
各本に添付されたQRコードを通して、参加者それぞれが他の参加者の出版物についての自らの視点を述べたコメントにアクセスできます。加えて、独立系出版社の書籍を多く取り扱う本屋青旗の店主・川﨑雄平氏の視点を含むコメントも閲覧できます。
また、特別な2回のトークセッションが1月20日に開催されます。最初のセッションでは、展示のテーマについて藤田裕美、米山菜津子、白石洋太、川﨑雄平の4人で話をします。
2回目のセッションでDog Yearsの「なにがみてるゆめ」に焦点を当てたディスカッションも開催し、小山田孝司、中村健太、松田瑞季、白石洋太が登壇します。中村健太と松田瑞季は、この本に写真家として貢献しており、彼らの視点からの洞察もこのセッションで共有される予定です。
本展示は、独立出版の多様性と創造性を探求する機会を提供し、出版の未来に新たな光を当てます。デザイン、文学、写真など、さまざまな分野における出版の可能性を、この展示を通じて発見してください。
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藤田裕美 (ふじたひろみ) he/him
グラフィックデザイナー / エディトリアルデザイナー。1982年東京生まれ。2004年桑沢デザイン研究所総合デザイン科卒業。デザイン事務所を経て2010年独立。2011年から2017年までWIRED JAPANアートディレクターを担当。2015年出版レーベルFUJITA設立。オルタナティブスペースSTUDIO STAFF ONLY共同主催。https://www.instagram.com/fjt.tokyo/
米山菜津子 (よねやまなつこ)
1981年東京生まれ。2003年に東京藝術大学デザイン科卒業、グラフィック・エディトリアルデザイナーとして活動開始。CAP、PLUG-IN GRAPHICを経て2014年にYONEYAMA LLC.を設立。出版レーベルYYY PRESS主宰。オムニバス冊子『GATEWAY』を不定期で発行するほか、オルタナティブスペースSTUDIO STAFF ONLY運営としても活動している。http://natsukoyoneyama.tokyo.jp
白石洋太 (しらいしようた)
ウェブデザイナー。出版社Dog Years、Far North Publishers Meetingを運営。https://dogyears.space