Far North Publishers Meeting

FUJITA

輪郭をなぞる
安藤智

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版元より:

東京を拠点に活動する画家、安藤智の画集。油画を多く描いている作家だが、ドローイングも多い。今回スケッチをまとめた本を作りたいということで協働することとなった。

やることはシンプルで、掲載候補の作品をひとまず全部提示してもらって対話を重ねながら作品のセレクト。本の判型、ページ数をはじめ造本設計をする。その上でレイアウトも同時進行して検証。

今回絵の端にカラーチップを配置したのは、シンプルな色鉛筆のドローイングに見えても、よく目を凝らすと色数がとても多い絵もあり、カラーチップが視覚的フックとなって逆に絵をじっくり見る、という効果を期待してのこと。

安藤の過去の作品集は小さな本が多かったので、今回大型本(A4変形)をつくれてよかった。線がのびのびとしている。(藤田)

米山

画家の安藤さんが過去につくってきた本は手のひらにおさまるようなささやかなものが多くて、それは、巨大化商品化するタブローのあり方的なものに異議を唱える行為でもあるのかも、と納得していたのだが、ひるがえって、本としての最新作である今作は大きなサイズのスケッチ集である。

めくっていると、すっぽり意識ごと包まれているような気分になる。実は安藤さんの絵を実際に見ているときにもそういう感じがあって、風がそよぐ草原にいるようなというか、絵のまわりに空間をはらむ伸びやかな力を感じる。

そうだった、そう思っていた、ということを、自分はこの本を見てはじめて言語化できた。あと、この本には絵のそばに色玉が添えてあり、どの色を使って描かれたのかわざわざ示されている。その操作によって、スケッチが図案のように見えてきて、なんだか「自分も描けそう」というか(描けないのだが)、「あなたも描いてみてはいかがですか」と語りかけられているような気持ちになるのだが、どういう意図でこれが入ったのか、こんど尋ねてみたい。

川崎

木の緑が描かれていない森の絵や、かろうじて風景とわかるようなスケッチなど、ここに収録されている安藤さんのスケッチには、他者にそれをどう見られるかといった自意識のようなものがまるでない。本人にそのことを伝えると、昔はそういう(他者を意識した)ものばかり作っていたと言って笑っていた。部分部分を成立させることの連続で、あるときふと絵が完成していると本人から聞いたときは嬉しかった。

一枚を折り畳んだ帯、鮮やかな見返し、シュリンクの上のホロなど、作家あるいは作品が内包する態度を起点にしているような造本も美しい。

白石

完成された作品と感じられるものもあれば、途中で放棄されたかのように思われる作品も存在する。これは画家の画集であるが、作家自身の輪郭をなぞるという実践の成果とも捉えることができる。絵自体だけでなく、その構成や本にすることそのものに重要な価値があると考えられる。タイトルの意味を考えながらページを行ったり来たりする楽しさがあり、「読み物」に仕上がっていると思う。

各絵にはカラーパレットが添えられているが、こういった一手間にとても嬉しい気持ちになる。それが邪魔になることなく、異なる解釈を促す点が魅力的だ。