著者: 安藤智
デザイン: 藤田裕美
刊行: 2023年
出版社: FUJITA
定価: 本体4,730円(税込)
A4変形
229mm × 303mm
64ページ
ハードカバー
シュリンク加工
東京を拠点に活動する画家、安藤智の画集。油画を多く描いている作家だが、ドローイングも多い。今回スケッチをまとめた本を作りたいということで協働することとなった。
やることはシンプルで、掲載候補の作品をひとまず全部提示してもらって対話を重ねながら作品のセレクト。本の判型、ページ数をはじめ造本設計をする。その上でレイアウトも同時進行して検証。
今回絵の端にカラーチップを配置したのは、シンプルな色鉛筆のドローイングに見えても、よく目を凝らすと色数がとても多い絵もあり、カラーチップが視覚的フックとなって逆に絵をじっくり見る、という効果を期待してのこと。
安藤の過去の作品集は小さな本が多かったので、今回大型本(A4変形)をつくれてよかった。線がのびのびとしている。(藤田)
画家の安藤さんが過去につくってきた本は手のひらにおさまるようなささやかなものが多くて、それは、巨大化商品化するタブローのあり方的なものに異議を唱える行為でもあるのかも、と納得していたのだが、ひるがえって、本としての最新作である今作は大きなサイズのスケッチ集である。
めくっていると、すっぽり意識ごと包まれているような気分になる。実は安藤さんの絵を実際に見ているときにもそういう感じがあって、風がそよぐ草原にいるようなというか、絵のまわりに空間をはらむ伸びやかな力を感じる。
そうだった、そう思っていた、ということを、自分はこの本を見てはじめて言語化できた。あと、この本には絵のそばに色玉が添えてあり、どの色を使って描かれたのかわざわざ示されている。その操作によって、スケッチが図案のように見えてきて、なんだか「自分も描けそう」というか(描けないのだが)、「あなたも描いてみてはいかがですか」と語りかけられているような気持ちになるのだが、どういう意図でこれが入ったのか、こんど尋ねてみたい。
木の緑が描かれていない森の絵や、かろうじて風景とわかるようなスケッチなど、ここに収録されている安藤さんのスケッチには、他者にそれをどう見られるかといった自意識のようなものがまるでない。本人にそのことを伝えると、昔はそういう(他者を意識した)ものばかり作っていたと言って笑っていた。部分部分を成立させることの連続で、あるときふと絵が完成していると本人から聞いたときは嬉しかった。
一枚を折り畳んだ帯、鮮やかな見返し、シュリンクの上のホロなど、作家あるいは作品が内包する態度を起点にしているような造本も美しい。
完成された作品と感じられるものもあれば、途中で放棄されたかのように思われる作品も存在する。これは画家の画集であるが、作家自身の輪郭をなぞるという実践の成果とも捉えることができる。絵自体だけでなく、その構成や本にすることそのものに重要な価値があると考えられる。タイトルの意味を考えながらページを行ったり来たりする楽しさがあり、「読み物」に仕上がっていると思う。
各絵にはカラーパレットが添えられているが、こういった一手間にとても嬉しい気持ちになる。それが邪魔になることなく、異なる解釈を促す点が魅力的だ。
「独立系出版のある極北」展
2024年1月20日(土) - 2月4日(日)
場所:本屋青旗
福岡県福岡市中央区薬院3-7-15 2F
12:00 - 19:00 水曜定休
---
2024年1月20日(土)から2月4日(日)まで、福岡・本屋青旗にて、「独立系出版のある極北」展を開催します。FUJITA、YYY PRESS、Dog Yearsの3つの独立出版社が、それぞれの視点と情熱をもって生み出された本を展示し、出版に込めた想いを共有します。
本展示では、藤田裕美(FUJITA)、米山菜津子(YYY PRESS)、白石洋太(Dog Years)の3人のデザイナーが、独自の出版活動を通じて生み出された作品群をご紹介します。
Dog Yearsは「なにがみてるゆめ」というタイトルの本を刊行しており、その著者である小山田孝司が制作にあたってインスピレーションを受けた本も同時に展示されます。
各本に添付されたQRコードを通して、参加者それぞれが他の参加者の出版物についての自らの視点を述べたコメントにアクセスできます。加えて、独立系出版社の書籍を多く取り扱う本屋青旗の店主・川﨑雄平氏の視点を含むコメントも閲覧できます。
また、特別な2回のトークセッションが1月20日に開催されます。最初のセッションでは、展示のテーマについて藤田裕美、米山菜津子、白石洋太、川﨑雄平の4人で話をします。
2回目のセッションでDog Yearsの「なにがみてるゆめ」に焦点を当てたディスカッションも開催し、小山田孝司、中村健太、松田瑞季、白石洋太が登壇します。中村健太と松田瑞季は、この本に写真家として貢献しており、彼らの視点からの洞察もこのセッションで共有される予定です。
本展示は、独立出版の多様性と創造性を探求する機会を提供し、出版の未来に新たな光を当てます。デザイン、文学、写真など、さまざまな分野における出版の可能性を、この展示を通じて発見してください。
---
藤田裕美 (ふじたひろみ) he/him
グラフィックデザイナー / エディトリアルデザイナー。1982年東京生まれ。2004年桑沢デザイン研究所総合デザイン科卒業。デザイン事務所を経て2010年独立。2011年から2017年までWIRED JAPANアートディレクターを担当。2015年出版レーベルFUJITA設立。オルタナティブスペースSTUDIO STAFF ONLY共同主催。https://www.instagram.com/fjt.tokyo/
米山菜津子 (よねやまなつこ)
1981年東京生まれ。2003年に東京藝術大学デザイン科卒業、グラフィック・エディトリアルデザイナーとして活動開始。CAP、PLUG-IN GRAPHICを経て2014年にYONEYAMA LLC.を設立。出版レーベルYYY PRESS主宰。オムニバス冊子『GATEWAY』を不定期で発行するほか、オルタナティブスペースSTUDIO STAFF ONLY運営としても活動している。http://natsukoyoneyama.tokyo.jp
白石洋太 (しらいしようた)
ウェブデザイナー。出版社Dog Years、Far North Publishers Meetingを運営。https://dogyears.space