著者: 竹之内祐幸
デザイン: 藤田裕美
刊行: 2023年
出版社: FUJITA
定価: 本体7,950円(税込)
208mm × 297mm × 13mm
128ページ
ハードカバー
竹之内氏とのコラボレーションが続くのはいくつか理由があって、ひとつに本作りにおけるチャレンジ精神を共有できるというのがある。制作上のキーワードはその都度あるように思うが、本気で作る、予算面でも妥協しないというハードモードで本件は始まった。
本のタイトル(経糸と緯糸を示す)、実際の作品群、本の刊行と同時に始まる個展のプランを聞きながらコンセプトを本に落とし込んでゆく。この本は特に造本が難しく、説明するのも面倒なほどに大変だった記憶だが、できたものとしては会心の出来であろうと思う。
ものの価値はすぐには判断できないことも多く、時間が流れてからこそ評価が定まるのだろうが、WARP AND WOOFは作家にとっては分水嶺のひとつとなるのではないだろうか、既にそんな予感を持っている。(藤田)
写真家・竹之内さんとFUJITAの3作目であるこの本は、継続して同じタッグでつくることの凄みをさらに感じられるものだった。
前作も感じた「角が立っている」質感がさらに迫ってきて、構造は複雑になり、それなのに一体感は増し、前作が短編映像を見た後に得られる爽快感だったとしたら、今回は長編映画を見終わったときのような、体力を消耗したとも言える満足感を得られる本になっていた。
その変化の度合いが竹之内さんの写真の変化の度合いとかなりリンクしていて、造本的にはかなり大冒険しているのだが、「こうせざるを得なかったのだな」と思わせられる強度がある。
こういう本をつくってしまうと後が大変そうだ。でもつくるときはそんなことは考えない。この本をつくりながら竹之内さんは展示も企画していて、本の制作とともに展示の内容も変わっていったという。ふたりの協働が連れていってくれる境地を見せてもらえることがただただ有難い。
緻密で強度のある写真にもかかわらず、大きなチリ(本文よりひとまわり大きくつくられた表紙)や、異なるサイズの紙、途中に組み込まれた観音開きなど、ほとんど余白を用いずに、シークエンスと立体的な造りで作品集にリズムを生んでいることに驚いた。
作品ごとに丁寧にレイアウト・プリントが手貼りされた『距離と深さ[第二版]』と対になるような本作の立ち位置が、造本にも反映されている。
設計的に複数のトリッキーな要素を用いているが、すべてに必然性が感じられるため、作品より前にデザインが出ることも決してない。それゆえに上品でもある。
まずこの本に収録されている、ソリッドで瑞瑞しい写真群に目を奪われる。竹之内氏と藤田氏のこれまでのコラボレーションの中でも少し違う立ち位置にある印象で、まず単純な気持ちよさを感じるアウトプット。
中面に白紙のページは一切登場しない。見開きそれぞれが丁寧に組まれており、楽しんで丁寧に作られていることが伺える。本自体、写真どちらも非常に高密度だが、ストレスが強いという印象ではなく瞑想的な雰囲気を持っており、ページをめくっているうちに気がつくと本の渦の中に飲み込まれているような感覚になる。
「独立系出版のある極北」展
2024年1月20日(土) - 2月4日(日)
場所:本屋青旗
福岡県福岡市中央区薬院3-7-15 2F
12:00 - 19:00 水曜定休
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2024年1月20日(土)から2月4日(日)まで、福岡・本屋青旗にて、「独立系出版のある極北」展を開催します。FUJITA、YYY PRESS、Dog Yearsの3つの独立出版社が、それぞれの視点と情熱をもって生み出された本を展示し、出版に込めた想いを共有します。
本展示では、藤田裕美(FUJITA)、米山菜津子(YYY PRESS)、白石洋太(Dog Years)の3人のデザイナーが、独自の出版活動を通じて生み出された作品群をご紹介します。
Dog Yearsは「なにがみてるゆめ」というタイトルの本を刊行しており、その著者である小山田孝司が制作にあたってインスピレーションを受けた本も同時に展示されます。
各本に添付されたQRコードを通して、参加者それぞれが他の参加者の出版物についての自らの視点を述べたコメントにアクセスできます。加えて、独立系出版社の書籍を多く取り扱う本屋青旗の店主・川﨑雄平氏の視点を含むコメントも閲覧できます。
また、特別な2回のトークセッションが1月20日に開催されます。最初のセッションでは、展示のテーマについて藤田裕美、米山菜津子、白石洋太、川﨑雄平の4人で話をします。
2回目のセッションでDog Yearsの「なにがみてるゆめ」に焦点を当てたディスカッションも開催し、小山田孝司、中村健太、松田瑞季、白石洋太が登壇します。中村健太と松田瑞季は、この本に写真家として貢献しており、彼らの視点からの洞察もこのセッションで共有される予定です。
本展示は、独立出版の多様性と創造性を探求する機会を提供し、出版の未来に新たな光を当てます。デザイン、文学、写真など、さまざまな分野における出版の可能性を、この展示を通じて発見してください。
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藤田裕美 (ふじたひろみ) he/him
グラフィックデザイナー / エディトリアルデザイナー。1982年東京生まれ。2004年桑沢デザイン研究所総合デザイン科卒業。デザイン事務所を経て2010年独立。2011年から2017年までWIRED JAPANアートディレクターを担当。2015年出版レーベルFUJITA設立。オルタナティブスペースSTUDIO STAFF ONLY共同主催。https://www.instagram.com/fjt.tokyo/
米山菜津子 (よねやまなつこ)
1981年東京生まれ。2003年に東京藝術大学デザイン科卒業、グラフィック・エディトリアルデザイナーとして活動開始。CAP、PLUG-IN GRAPHICを経て2014年にYONEYAMA LLC.を設立。出版レーベルYYY PRESS主宰。オムニバス冊子『GATEWAY』を不定期で発行するほか、オルタナティブスペースSTUDIO STAFF ONLY運営としても活動している。http://natsukoyoneyama.tokyo.jp
白石洋太 (しらいしようた)
ウェブデザイナー。出版社Dog Years、Far North Publishers Meetingを運営。https://dogyears.space