Far North Publishers Meeting

FUJITA

距離と深さ [第二版]
竹之内祐幸

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版元より:

コロナ禍のはじまる直前に同名の展示とともにこの本を作った。さて展覧会をするからには本も作りたい、というのが暗黙の了解のようになっており、撮り貯めた作品を見せてもらう。

あけすけに言ってしまえば本作りにとって大事なのは作品そのものの質と、予算である。予算から逆算してものを作るのは貧しい気もするが、予算を無視することはできない。本作りの仕事で培った知識や技術を総動員して「落とし所」を探っていく。

予算をかければ良いってものでもないが、本の質のために落とせない予算も必ずある。上製本でも並製本でもなんでも良いが、zineのようなものは想定しておらずただプロフェッショナルさ/クオリティーだけは担保したい。そのあたりの認識を作家と擦り合わせた結果、このような形になった。

前作に引き続きパラパラめくることが不可能な、ある意味本という形態の良さの一部分を拒絶したような造本。しかし佇まいが美しく、写真にも向き合えるので、これはこれで良いのである。

2020年には初版150部がすぐに売り切れ、重版の予定はなかったが、2023年に一部内容を差し替えの上第二版を刊行した。(藤田)

米山

写真家・竹之内さんとFUJITAの2作目であるこの本は、継続して同じタッグでつくることの凄みを感じられるものだった。

藤田くんには「この本がこういう仕様であるべき理由」を丹念に考える執念があると常々感じるのだが、今作を初めて見たとき、それを写真家との深い信頼関係でやり切ったとみえた。存在としてはさらりとしているのだが、「自分ではここまでできないな〜」という手間のかけかたがつくる側としては見えまくってきて、参りました、と思った。

第一版と第二版では、表紙や挟み込まれている色紙に貼ってある写真が異なっていて、第一版で感じた曖昧性みたいなものが薄れ、第二版では具体性が増している。読後感がけっこう違う。

よく音楽作品で「リマスタリング」されたものが発表されると過去作と違った聴こえ方にはっとさせられることがあるが、そういう感じで「これが今の距離と深さか」と納得させ続けるポテンシャルがある形式のような気がして、今後も版を重ねていって欲しいと思ってしまう。

川崎

身の回りの日常を撮ったスナップを中心とした写真群。強い写真であるにもかかわらず、ナイーブな気配を感じさせるのは、写真そのものとそれを支える設計から生まれているのだろう。

作品ごとにレイアウトされたページ、表紙および本文にはプリントが手貼り、スクラム製本で綴じられており、油断すると崩れてしまいそうなきわめて繊細なつくりが、強度とはまた別の緊張感をもたらしている。

また、第二版となる本書は、手貼りされたプリントと紙の色が初版から変更されている。あくまで複製物でありながら、この瞬間、この場所だけに存在しているようなアウラがある本。

白石

漫画「キン肉マン」に出てくる「真・友情パワー」が記憶に残っている。詳しくは述べないが、これは「馴れ合いを捨て、それぞれの超人が強い自立心を持ちつつ協力する」という理想を示している。

友達とは何かと考えることがある。いつも会うわけではないが、必ずしも会う頻度が高いからといって仲の良い友達とは限らない。離れていても、数年に一度しか会わない人でも、友達と呼べる人がいる。人との親密さは頻度では計れないと思う。インターネットに常に繋がっていて、常にリアクションを求められる現代だからこそ、実際にどれだけその人と関係を深められているかを考えたいと思う。

それぞれの人との間にはそれぞれの距離と深さがある。「距離と深さ」に収録されている写真は内省的で、作家の思考の流れを感じる。他人の意識が時々自分とリンクするのが面白い。造本自体も、単にページをめくる楽しみを提供しているのが良く、手に取るモチベーションを与えてくれる。かなり高次元なコラボレーション。