Far North Publishers Meeting

FUJITA

Things will get better over time
竹之内祐幸

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版元より:

写真家、竹之内祐幸による写真集。

セクシャルマイノリティであることを公言している彼が撮るポートレイトを見せてもらったことがある。そこには彼の嗜好が反映されており、雰囲気の似た男性たちが収められていて、皆体格の良い短髪だった。そういった類の男性像は欧米のゲイカルチャーではむしろメジャーな領域なのではと思ったが、日本では、写真表現のシーンで見る機会が不思議と少なかった。

竹之内の捉える男性性を示すことも多様性という意味では大事なのではなかろうか、そんなことを当時考えていたように思う。具体的な本作りとしては、長年撮り貯めたスナップを再構成することになり、ひと見開きごとに真っ白なページを挟み込んだ。パラパラめくると白紙の本にしか見えず、ひと見開きごとに開かないと写真を見ることができない。強制的に指の運びは遅くなり、対象に対峙せざるを得ない。

あるとき本を手に取ったご婦人がぱらぱらとめくり、「綺麗なノートね」と言った。それはそれでいいのかもしれない。(藤田)

米山

青焼き、という印刷方法が以前あって、光の明暗が青色の濃淡として写る「ジアゾ式複写技法」で刷られたもののことがそう呼ばれていた。建築の現場では設計図を出力するための方法だったと聞く。

グラフィックデザインの現場では「色以外の記載内容を確認するため」に安価な選択肢として使われていたのだが、自分は青焼の校正紙をみるたびに「質感が美しいなあ」と本来の目的と違うところで感心していた記憶がある。

この、竹之内さんの写真集はその青焼きの青を思い起こさせる色で全ての要素が刷られていて、写真に撮られた被写体がもう時間的にも空間的にもいまもうここにはない、とつよく感じさせる。でも寂しさや感傷のようなものはあまりなくて、遠さ、つまりもう手が届かないことを前提として、その図像がページの上で別の美しさに置換されることが目指されているように思える。

川﨑

後に刊行された距離と深さ[第二版]とWARP AND WOOF を見たあとに本作を手にとった。十年以上に渡って撮り溜めたという写真をまとめている本作では、写真はすべて青一色で刷られており、日常を捉えた一見叙情的な写真から色情報とともに情緒的な要素が削ぎ落とされている。

にもかかわらず、写真の間につくられた多くの余白によって作品ごとの余韻が生まれ、印刷、紙、製本、リズムの取り方など、センセーショナルな伝達を避け、平易な言葉で繊細な波紋を掬いとったような作品集。

白石

藤田氏より事前に聞いていた話だが、多くの白紙のページの間に時折写真が印刷されたページが挟まれるというこの本の特徴的な作りは、読者が写真を見落とさないように慎重に読むことを促すためであるという目的を持っている。

通常、書籍においてこれほど多くの白紙のページが続くことは期待されない。しかし、竹之内氏と藤田氏のコラボレーションにより、この斬新なアイデアが実現し、作品全体のコンテクストと見事に融合している。二人の創造性がこのようなユニークな作品を生み出したことは非常に興味深い。

また、逆にパラパラとめくることで生まれる異なる読み方は、何か映画のようなストーリーを生み出すようである。このような読み方もまた、本書の魅力の一部である。