著者: 吉川周作
デザイン: 米山菜津子
刊行: 2023年
出版: YYY PRESS
協力: 八紘美術
定価: 4,400円(税込)
143mm x 210mm
(with 19 four-page fold-out spreads to 286mm x 420mm)
写真を取り巻く状況は激しく変わっている、というのは写真を考える人にとっては自明のことかもしれないが、写真に限らず今は何もかもが目まぐるしく変わっているから写真もそうなるだけなのかもしれない。ともかく、写真を「いま」「どう撮り」「どう発表するか」というのは写真を考える人にとってはなかなかの難題なのではないかと思う。そして、写真を「いま」「どう本にするか」も共に難題だ。
この本は、写真家・吉川周作さんが浅草で展示をして(事務所とオルタナティブスペースは東京五輪のあとに神宮前から浅草に引っ越した)、そのアーカイブとしてつくった図録だ。展示は、「写真をどう定着させるか」に着眼点を置き、つまり「写真を各種のメディウムに適切に定着させること」それ自体がテーマとなっており、そのテーマをさらに「本というメディウムにどう定着させるのがよいのか」という入子構造のような問題をどうかたちにしたらよいのか、半年間くらいかけて話し合いながら制作した。(米山)
ある写真家の思索を、ポスター状のページを開くという行為を内包する造本によって表現している。紙に印刷されて製本されている時点で表現は固定されているはずなのに、紙を開いたり閉じたりすることでモチーフの全体とディテールが入れ替わり、動的である。
表紙らしい表紙も、カバーも、背もない造本からして、この本は表現を固定化する装置ではなく、表現が進行形であることを示す装置であると解釈した。
STUDIO STAFF ONLYで開催された、写真家・吉川周作の展覧会「Common Face」の記録集。作品の全体像を収めた写真と、一部分を捉えた写真が表裏になるよう構成され、四つ折りのページをひらくと大きなサイズで写真を見ることができる。写真の規則性を造本に用いているように見えるが、写真の距離と用紙サイズのルールが必ずしも一致せず、その違和感がページをめくる手を鈍らせる。全体と細部を往復する展示体験のそれを本で再構築したような一冊。
ぱっと見で豆腐のような本である。
本の中に特にステートメントがあるわけではない。造本も普通ではなく、思うように前へ進むことができない。写真1枚1枚について考えるというよりも、とにかく全体というのを意識させられる。そういうことを考えていると逆に写真に写っている細かい部分にも目がいってしまう。その味方が合っているのか間違っているのかはわからないが、とにかく一筋縄ではいかない本である。
米山さんは本に人格を与えるのがとても上手い。
「独立系出版のある極北」展
2024年1月20日(土) - 2月4日(日)
場所:本屋青旗
福岡県福岡市中央区薬院3-7-15 2F
12:00 - 19:00 水曜定休
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2024年1月20日(土)から2月4日(日)まで、福岡・本屋青旗にて、「独立系出版のある極北」展を開催します。FUJITA、YYY PRESS、Dog Yearsの3つの独立出版社が、それぞれの視点と情熱をもって生み出された本を展示し、出版に込めた想いを共有します。
本展示では、藤田裕美(FUJITA)、米山菜津子(YYY PRESS)、白石洋太(Dog Years)の3人のデザイナーが、独自の出版活動を通じて生み出された作品群をご紹介します。
Dog Yearsは「なにがみてるゆめ」というタイトルの本を刊行しており、その著者である小山田孝司が制作にあたってインスピレーションを受けた本も同時に展示されます。
各本に添付されたQRコードを通して、参加者それぞれが他の参加者の出版物についての自らの視点を述べたコメントにアクセスできます。加えて、独立系出版社の書籍を多く取り扱う本屋青旗の店主・川﨑雄平氏の視点を含むコメントも閲覧できます。
また、特別な2回のトークセッションが1月20日に開催されます。最初のセッションでは、展示のテーマについて藤田裕美、米山菜津子、白石洋太、川﨑雄平の4人で話をします。
2回目のセッションでDog Yearsの「なにがみてるゆめ」に焦点を当てたディスカッションも開催し、小山田孝司、中村健太、松田瑞季、白石洋太が登壇します。中村健太と松田瑞季は、この本に写真家として貢献しており、彼らの視点からの洞察もこのセッションで共有される予定です。
本展示は、独立出版の多様性と創造性を探求する機会を提供し、出版の未来に新たな光を当てます。デザイン、文学、写真など、さまざまな分野における出版の可能性を、この展示を通じて発見してください。
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藤田裕美 (ふじたひろみ) he/him
グラフィックデザイナー / エディトリアルデザイナー。1982年東京生まれ。2004年桑沢デザイン研究所総合デザイン科卒業。デザイン事務所を経て2010年独立。2011年から2017年までWIRED JAPANアートディレクターを担当。2015年出版レーベルFUJITA設立。オルタナティブスペースSTUDIO STAFF ONLY共同主催。https://www.instagram.com/fjt.tokyo/
米山菜津子 (よねやまなつこ)
1981年東京生まれ。2003年に東京藝術大学デザイン科卒業、グラフィック・エディトリアルデザイナーとして活動開始。CAP、PLUG-IN GRAPHICを経て2014年にYONEYAMA LLC.を設立。出版レーベルYYY PRESS主宰。オムニバス冊子『GATEWAY』を不定期で発行するほか、オルタナティブスペースSTUDIO STAFF ONLY運営としても活動している。http://natsukoyoneyama.tokyo.jp
白石洋太 (しらいしようた)
ウェブデザイナー。出版社Dog Years、Far North Publishers Meetingを運営。https://dogyears.space