Far North Publishers Meeting

FUJITA

OH MOUNTAIN!!
中村翔大

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版元より:

FUJITAとしての一冊目の出版物。画家、中村翔大による画集。

当時私はテクノロジーをテーマにした雑誌のアートディレクションを担当しており、その際に出版社内の視点で編集はもちろん、販売、営業、流通までを間近で見ていた。編集/デザインのプロセスはずっと関わってきた領域で理解もあるが、それ以外の本作りの重要なことを具体的に学べた機会だった。

話を戻して、なぜこの本を作ったのか。

①作家の絵が良いと思った。展示も良いが、本という形で見るといいのではないかと直感的に思った。自分が形にしたいと思った。

②画集の仕事をしたかった。正確には既に仕事としてしていたが、もっと自由にやりたい。

③販売、営業、流通まで全てを込みで、自己責任でやってみたかった。

実際学びは多く、販売や流通はデザインとはまったく別の筋肉の稼働が必要なことを身を以て知る。本に限らずメディアという領域で仕事をしているので、そこに関する視点も増えた。解像度も上がった。

しかしそんなことはさて置いて、作家がこの画集を名刺代わりとしてヨーロッパで活躍し、いまは大変な売れっ子になっているようだ。もう彼の絵を買うのは難しいかもしれない。でも今度帰国した時に酒でも奢ってもらえれば、対価としては十分回収できているのである。(藤田)

米山

マウンテン、ときいて自分の目の奥に再生される色と、この画集をめくり繰り出される色の違いにまず驚く。画家の目には、心象には、こういう鮮やかな色たちの兆候がうつっているのか、と。

パステルでぐりぐりと描かれたかたちは山の植栽のようすなのだが、柔らかそうだけれど触ると痛い毛をまとって威嚇するハリネズミ的な動物のかたちのようでもあり、この本が刊行された9年前、自分たちもそういう感じだったのではないか、など思い返したりもし、そのことを懐かしく誇りに思う。

絵に没頭したあとに改めて本をぱらぱらとめくると、見返しに栞に、また本文に時折あらわれる淡く鮮やかなグリーンやサーモンピンクの色が同じ色でなく、移り変わっていくことにキュンとする。そうやって自分たちも揺らぎながら移ろってきた気がしている。

謎かけのような仕様を本にすっと潜ませるのが藤田くんはうまい。

川崎

2015年に初の刊行書籍としてリリースされた、画家・中村翔大の作品集。タイトルを見て初めて山とわかるような、抽象画のような風景画が収録されている。

本作には、ギャラリートラックスでの展示記録をまとめた冊子が付属し、ここには作品の写真と、それらと連関するような風景の写真が時折登場する。写真と作品が並び、絵になにが描かれているのか、言葉は用いずも親切な描写がなされている。

もし今藤田さんがこの本をつくるなら冊子はつけないのではないか、いずれも推測の域を出ないが、FUJITAもYYY PRESSも年々「分かりやすさ」から離れているように見える。

白石

ページを開くごとに目を楽しませる鮮やかな色彩があふれ、喜びを感じさせる。しかし同時に、各作品が秘める狂気や混沌に心を引き込まれる。表面的には温かみのある作品群だが、制作の過程での苦労や挑戦が垣間見え、感情を動かされる。

この本を読むことは、初めて探索する深い森や山を歩くような新鮮な体験だ。複雑な道の中で、カラフルな白紙のページが時おり現れ、読者に休息の時間を与え、冒険を続ける勇気を与えてくれる。

この本は、手に取りやすいサイズと重さで、日常に自然に溶け込むようなデザインをしている。しかしよく見ると、表紙の造りも特別で、白紙のページの色も、微妙に異なっている。これらの細部は、気づかなくても無意識に読者に影響を与えている。

藤田氏が手がける本は、読者に静かに読み方を促す細工がされているものが多い。これは、2015年に刊行された「FUJITA」という藤田氏の最初の本から既に始まっていたことだ。